2026年2月20日、米連邦最高裁はIEEPA(International Emergency Economic Powers Act、国際緊急経済権限法)を根拠にした関税を無効と判断しました。2025年4月から2026年2月まで日本からの輸入品にかかっていた相互関税がこれにあたります。
CBP(U.S. Customs and Border Protection、米国税関・国境警備局)は2026年4月から還付申請を受け付けています。US法人で輸入していたブランドにはまとまった金額が戻ってくる可能性があります。
還付金を入金した月の原価から引くと、その月の貢献利益は大きく跳ね上がります。その数字をそのまま本社に出さないでください。還付金の大半は何か月も前に売り終えた商品の原価の訂正で、今月の運営の成果ではありません。
還付が入った月は、利益が3倍に見える
あるUS法人の例です。月の純売上高(Net sales)は12万ドル。貢献利益 CM2(Contribution Margin 2、広告費を引いた後)は普段1万9,200ドルで、対純売上高比16.0%です。
説明を簡単にするため、扱う商品はすべてMFN(Most Favored Nation、通常の関税率)が3%で例外品目に当たらないものとします。2025年8月7日以降の日本からの輸入品は、日米の合意によりMFNを含めて合計15%でした。還付されるのはMFNを超えて上乗せされていた部分です。
| 輸入した日 | 課税価格 | 還付される関税 | 還付額 |
|---|---|---|---|
| 2025年4月5日〜8月6日 | $144,000 | 上乗せの10% | $14,400 |
| 2025年8月7日〜2026年2月23日 | $234,000 | 15%のうちMFN分を除く12% | $28,080 |
| 合計 | $378,000 | $42,480 |
この還付金がある月にまとめて入金されたとします。4万2,480ドルをそのままその月の売上原価(Cost of goods sold)から引くとCM2は6万1,680ドル、対純売上高比51.4%になります。
普段の3倍を超える数字が何も変えていない月に出ます。
還付金は3つに分ける
還付金は関税を払ったときの輸入ロットに戻して考えます。この会社では還付対象のロットのうち9割がすでに売れていて、1割がまだ倉庫にあるとします。
| 内訳 | 金額 | どの月の利益か |
|---|---|---|
| すでに売れた商品の分 | $38,232 | 過去の売れた月 |
| 倉庫にある商品の分 | $4,248 | これから売れる月 |
| 利息 | 別途 | 貢献利益の外 |
1. すでに売れた商品の分は、過去の月の原価の訂正です。その商品が売れた月の貢献利益が実際より低く出ていたということです。今月の成果ではありません。
2. 倉庫にある商品の分は、その在庫の着地原価を下げます。利益に出るのはその在庫が売れた月です。
3. 利息は関税の払い戻しではありません。原価から引かずに貢献利益の外に置きます。
どれも還付が確定してから書き換えます。申請中の金額で原価を下げると、還付されなかったときにもう一度直すことになります。
本社に出すその月の貢献利益は1万9,200ドル(対純売上高比16.0%)のままです。還付金は3つに分けたまま別の行に載せます。前月比を要因ごとに分けて出す形は「本社に数字を出す前に、為替を切り分けてください」で書いた通りです。
どの月に計上するかという財務会計上の扱いは、会計士が決めることです。ここで扱っているのは商品ごとの貢献利益で値付けや広告を判断するための管理上の数字です。
還付後の原価で、次の判断をしない
還付で下がるのは相互関税がかかっていたロットの原価だけです。倉庫には輸入した日によって関税率の違う在庫が並んでいます。
| 輸入した日 | 根拠 | 合計の関税率 |
|---|---|---|
| 2025年4月5日〜2026年2月23日 | IEEPA(還付後はMFNのみ) | 3% |
| 2026年2月24日〜7月23日 | 通商法122条(MFN+10%) | 13% |
| 2026年7月24日〜 | 通商法301条(日本はMFN込み12.5%) | 12.5% |
通商法122条の10%はIEEPAに代わって150日間かけられた関税で、2026年10月時点で還付は決まっていません。7月24日からは通商法301条にもとづく関税に切り替わり、日本からの輸入品は「12.5%かMFNの高い方」になりました。どちらも裁判で争われていて、税率や還付の扱いはまだ動く可能性があります。
品目による例外もあります。2025年11月には茶やコーヒーなど一部の農産品が相互関税の対象から外れました。同じ期間の輸入でも商品によって還付額は変わります。
「損益分岐ROASは一つの数字ではない」の48ドルの商品で見ます。本社からの仕入は1個12ドルで、関税は1.50ドルで計算していました。仕入の12.5%で、いま輸入するロットとちょうど同じ税率です。配送費や手数料などの前提はその記事と同じにして、ロットごとの損益分岐ROAS(Return on Ad Spend、広告費に対する売上の倍率)を出します。
| ロット | 1個あたりの関税 | 損益分岐ROAS |
|---|---|---|
| 相互関税の期間(還付後) | $0.36 | 2.21 |
| 通商法122条の期間 | $1.56 | 2.34 |
| 2026年7月24日以降 | $1.50 | 2.33 |
還付で原価が下がるのはその古いロットが売り切れるまでです。次のロットは12.5%です。還付後の原価を見て値下げや広告の増額を決めると、新しいロットが売れ始めた月に利益が落ちます。
逆も同じです。2025年に関税を理由に値上げした商品があっても、還付でその判断が間違いだったことにはなりません。いま輸入する分の関税は12.5%で、当時の15%と大きくは変わらないからです。
還付は、輸入者に戻る
確認しておくことが3つあります。
還付が戻るのは輸入者(Importer of Record)です。US法人が輸入者ならUS法人に戻ります。本社が非居住者として輸入者になっていた場合やフォワーダーが輸入者だった場合は、還付はそちらに入ります。関税をUS法人の原価として負担していたのに還付が別の会社に入ると、US事業の貢献利益は過去の分も在庫の分も直りません。グループ内でどう精算するかは移転価格にも関わるため、税理士と決める必要があります。
還付は申請しないと戻りません。通関業者(Customs broker)にどの輸入分が対象で申請が済んでいるかを確認してください。清算(liquidation)が確定して時間が経った古い輸入分は裁判所に申し立てなければ戻らない可能性があり、その申し立てにも期限があります。
1個あたりの還付額は、課税価格から出します。関税がかかるのはUS法人が本社に払う価格で、販売価格でも着地原価でもありません。国際運賃は請求書で分けて記載されていれば課税価格に入りません。運賃込み(CIF)で課税する日本の輸入関税とはここが違います。
関税制度と還付手続きの記述は2026年10月9日時点の情報です。個別の輸入分の扱いは通関業者や弁護士、税理士に確認してください。
続けるための仕組み
難しいのは、還付をロットまで戻すことです。
還付はエントリー(輸入申告)単位で決まります。1つのエントリーには複数のSKU(Stock Keeping Unit、在庫管理上の最小単位)が入っていて、ロットごとに課税価格も数量も違う。そのロットのうち何個が、いつ売れたか。これを税率が4回変わった1年半にわたって追う必要があります。在庫を移動平均で持っていると、この情報は残っていません。
craft8 は関税を輸入ロットの原価として持ち、ロットごとに何個がいつ売れたかを記録します。還付金がどの月のどの商品の利益だったかを、後から辿れる形です。
還付額のロットへの戻し方、本社への出し方。このあたりで手が止まったら、Xまでご連絡ください。
X:https://x.com/craft8io