US法人を持つブランドは、毎月どこかで本社に数字を出しています。
様式は親会社ごとに違います。四半期の役員会に上げる資料もあれば、経理部が月次で回収するフォーマットもある。ただ聞かれることは、だいたい同じです。
前月より落ちているのはなぜか。
この質問に数字で答えられるかどうかで、US事業の見られ方が変わります。
説明がなければ、全部が実力になる
ある月の数字です。US純売上高(Net sales)は前月とほぼ同じ128,400ドル。貢献利益(広告費控除後、CM2)の対純売上高比は18.6%から16.5%に落ちました。2.1ポイントの下落です。
金額にすると約2,700ドル。
このまま報告すると、質問は一つです。何があったのか。
「原価が上がりまして」では通りません。「運賃が高くて」も同じです。下落の理由を分解できていない報告は、運営の問題として処理されます。それが実際の原因かどうかとは関係なく、他に説明がないからです。
2.1ポイントを分解する
分解するとこうなります。
| 要因 | 影響 | 金額 |
|---|---|---|
| 前月 CM2 対純売上高比 | 18.6% | |
| 為替(売れたロットの仕入レート ¥155 → ¥149) | −1.41pt | −$1,808 |
| 一部SKUを航空便に切替 | −0.50pt | −$642 |
| 3PL保管料の増加 | −0.20pt | −$257 |
| 当月 CM2 対純売上高比 | 16.5% |
下落の2.1ポイントのうち、1.4ポイントは為替です。全体の3分の2にあたります。
自社の判断で動いたのは残りの0.7ポイント、金額にして約900ドル。そのうち航空便への切替は、欠品を避けるための意図的な判断です。
同じ2.1ポイントでも、「為替で1.4、欠品回避の判断で0.5、保管料で0.2」と説明できれば、話の中身が変わります。
為替の影響は、どのレートで計算するか
ここが一番間違えやすいところです。
使うのは月末のレートでも、月中の平均レートでもありません。その月に売れた在庫を、仕入れた日のレートです。
上の表の¥155と¥149は、カレンダー上の前月と当月のレートではありません。前月に売れたロットはおおむね¥155で仕入れたもの、当月に売れたロットは¥149で仕入れたもの、という意味です。
計算はこうなります。当月に売れた数量を、前月のロットの仕入レートで評価し直して、実際の売上原価(Cost of goods sold)と比べます。
当月の売上原価(実際の仕入レートで確定) $46,708
同じ数量を前月ロットの仕入レートで評価 $44,900
為替による差 = $46,708 − $44,900 = $1,808
対純売上高比 = $1,808 ÷ $128,400 = 1.41pt
円安に振れれば符号が逆になります。この場合は貢献利益が改善しますが、それも実力ではありません。為替を切り分けるのは悪い月に言い訳をするためではなく、良い月に実力を過大評価しないためでもあります。円安で伸びた月をそのまま実績として報告すると、円が戻ったときに説明できなくなります。
為替は、動いた月に損益に出るわけではない
これが本社報告で一番の混乱を生みます。
為替が動いてから損益に出るまでには、時間差があります。海上便で仕入れている場合、流れはこうです。
- 3月 円高が進む
- 4月 そのレートで発注し、支払う
- 5月末 海上便で着荷
- 6月から7月 販売され、売上原価に計上される
損益に出るのは6月です。円高が進んだ3月ではありません。
だから本社からは、2回ずれた質問が来ます。4月には「円高になったのに、なぜ利益が変わらないのか」。6月には「為替は落ち着いているのに、なぜ利益が落ちたのか」。
どちらも、在庫を仕入れたときのレートで説明すれば答えられます。為替が損益に出るタイミングは、在庫の回転期間で決まります。回転の遅いSKUほど、何か月も前の為替を今月の損益に運んできます。
後から計算し直すことはできない
上の計算には、ロットごとの仕入日とそのときのレートが要ります。
在庫を移動平均法で持っていると、この情報は消えます。平均した時点で、どの在庫がいつのレートで入ったかは分からなくなる。そうなるとあとから為替の影響だけを取り出すことはできません。
海上便と航空便が混ざったロットが同時に在庫にあると、運賃の差も同じように埋もれます。
為替を切り分けたければ、切り分けられる形で記録しておく必要があります。これは分析の問題ではなく記録の問題です。
報告に入れる3つ
様式は親会社ごとに違うため形は揃えられません。ただ入れる数字は共通です。
1. 貢献利益の前月比を、要因ごとに分けた表
上の表の形です。合計が合っていること、そして自社の判断で動いた部分とそうでない部分が分かれていること。この2つが満たされていれば様式は何でも構いません。
2. 為替の影響額を、単独の行として
まとめて「原価増」にしないでください。分けた瞬間に、それが説明可能な変動であることが伝わります。あわせて、その為替がいつの仕入によるものかを添えると、時間差の質問に先回りできます。
3. 意図的な判断は、比較した金額とセットで
航空便への切替はコストが上がる判断です。ただし欠品と比べた結果であれば、それは判断であって失敗ではありません。
上の例なら、航空便で届いて当月に売れたのが300個。追加運賃は1個2.14ドルで合計642ドル。この300個が欠品していれば、1個20.61ドルの貢献利益(広告費控除前、CM1)を失っていたので合計6,183ドル。642ドル払って6,183ドルを守ったと書けるなら、それは説明ではなく報告です。
円高は、聞かれる前に説明しておく
為替が不利に動いた月は、報告のあとに必ず質問が来ます。
そのときに計算を始めるのでは遅い。数字を出す側が先に分解して提示していれば、質問は「なぜ落ちたか」ではなく「航空便の判断は妥当だったか」に変わります。後者は議論できます。前者は弁明にしかなりません。
説明できない下落は、実力の下落として扱われます。避けようのない部分と自社で動かした部分。この2つを分けておくだけで、同じ数字がまったく違う意味を持ちます。
続けるための仕組み
難しいのは、これを毎月続けることです。
ロットごとに仕入日のレートを引き当て、海上便と航空便を分けて原価計上し、3PL(3rd Party Logistics、物流委託先)の請求書から保管料をSKU(Stock Keeping Unit、在庫管理上の最小単位)に割り戻す。月初の数日でこれを終える必要があります。本社の締めは待ってくれません。
craft8はこの計算を毎日自動で回すために作りました。Shopifyと広告媒体をつなぎ、通関書類と3PLの請求データを取り込んで、SKU単位の貢献利益を出します。入荷ごとにロットを作り、仕入日のレートで原価を確定させるため、為替による増減を損益から切り分けた状態で持っています。前月比の要因分解は月初にそのまま出てきます。
様式に合わせた資料を作ることはできません。できるのは、その様式に入れる数字を月初にすべて揃えておくことです。
要因分解の作り方、移動平均で持っている在庫からどう組み直すか。このあたりで手が止まったら、Xまでご連絡ください。
X:https://x.com/craft8io