US市場で商品を売っている日本ブランドの多くが、自社の利益を実際より30%以上高く見積もっています。

悪意があるわけでも、計算が下手なわけでもありません。使っている「原価」という数字が、そもそも間違っているからです。

具体的な話をします。ある商品の工場出し原価が1,200円。US価格は28ドル。150円換算なら原価8ドル、粗利率は約71%。悪くない、むしろ良い数字に見えます。

でも、この71%は幻です。

問題1:その原価、どの為替レートで計算していますか

1,200円を8ドルに換算したその「150円」は、いつのレートでしょうか。

日本発US販売の商品は、発注してから実際に売れるまでに数週間から数ヶ月かかります。発注した時点。円で支払った時点。USに届いた時点。売れた時点。この間ずっと、円ドルレートは動き続けています。

過去数年で、円ドルは110円から160円まで、40%以上動きました。つまり「去年決めた原価」と「今の本当のコスト」は、平気で30%以上ズレます。

多くのブランドは、期初に決めた固定レートで原価を計上しています。会計上はそれで問題ありません。でも、経営判断のための「本当のコスト」としては、現実と乖離した数字です。

実際に円をドルに替えて仕入れに使ったレートは、帳簿の固定レートとは違うはず。その差額は、どこにも表示されないまま、利益から静かに消えていきます。

150円で計上した原価が、実際には135円で支払っていたなら、本当の原価は8ドルではなく8.89ドル。この時点で、粗利率はもう71%ではありません。

問題2:工場出し原価は、原価のほんの一部でしかない

もっと大きな問題はこちらです。「1,200円」は工場を出た瞬間の値段。お客様に届くまでのコストは、一切含まれていません。

日本からUSのお客様の手元に届くまでには、いくつもの層が乗ってきます。

  • 国際輸送費 海上か航空かで単価は大きく変わる。1個あたりに按分すれば必ず乗る。
  • 関税 商品分類で税率はまったく違う。自社のHTSコードと実際の税率を正確に把握しているブランドは驚くほど少数。
  • 3PLコスト 入庫、保管、ピッキング、梱包、出荷。1注文あたり数ドル単位。
  • 決済手数料 28ドルの売上に2.9%+30セントなら約1.11ドル。
  • 返品と再処理 US市場の返品率は日本より高い。ここを見ていないと利益はさらに削られる。

これを全部足すと、さっきの商品の「本当の原価」は、8ドルではなく15ドル前後になります。売価28ドルに対して、広告費を引く前の貢献利益率は、71%ではなく47%前後。

そして、ここから広告費を引きます。US市場のCACは上がり続けています。現実的な広告費を乗せると、「71%の粗利」だと思っていた商品は、手元に残る利益で見ると28%前後まで落ちます。

71% 見かけの粗利
28% 本当の利益

この差の上で、毎日の広告予算も、値付けも、「US事業は儲かっているのか」という判断も下されています。

なぜダッシュボードは、これを教えてくれないのか

答えはシンプルです。US製のツールは、US国内のブランドのために作られているからです。

原価はドル建て。仕入れは国内。為替の概念はゼロ。そういう前提で設計されています。円建ての原価も、為替のズレも、太平洋を越える輸送コストも、そのデータモデルには存在しません。だから表示できません。

一方、日本のツールはUS市場の売上データもCACも見ていません。

つまり、日本発US販売という領域は、どちらのツールにとっても盲点。Shopifyの管理画面が見せている「粗利」は、この盲点をそのまま反映した、現実より良く見える数字です。

今週、これを試してみてください

ツールはいりません。スプレッドシートで十分です。ヒーローSKUを1つ選んで、次を1個あたりに落とし込んでください。

  • 工場出し原価(実際に支払ったレートで換算した、本当のドル金額)
  • 国際輸送費の按分
  • 関税
  • 3PLコスト(入庫・保管・出荷)
  • 決済手数料
  • 返品引当

売価からこれを全部引く。さらに、その商品を1個売るためにかかっている広告費を引く。

そこに残った数字が、その商品から本当に得ている利益です。Shopifyが見せている数字と、どれだけ違うか。おそらく、想像より大きく違うはずです。

一度、自社のヒーローSKUの本当の原価を出してみてください。その数字を見た瞬間、US市場の戦い方が変わります。