US事業を担当されている方から、同じ話を何度も伺います。
ECが売上の中心になっているのに、そこに使える時間が一番少ない。広告は代理店、物流は3PL(Third Party Logistics、物流委託先)、サイト改修は制作会社。任せられるものは任せてきた。それでも判断しなければならないことは減っていない。
外注そのものは正しい判断です。US市場の広告運用を内製化するには、人員も時間もかかります。
問題は、どこで線を引くかです。
多くの場合この線は、「自分が苦手なこと」や「時間がかかること」で引かれています。それだと任せてはいけないものまで一緒に渡してしまいます。
線を引く基準は一つ
その仕事の成果を検証するために必要なデータを、相手が持っているかどうか。
持っているなら任せて構いません。相手は自分の仕事を自分で確認できます。
持っていないなら、任せた瞬間に誰も検証できなくなります。相手の問題ではなく、検証できない状態を作ってしまっている。
この基準で分けると境界はかなりはっきりします。
任せられるもの
広告運用。 代理店は広告媒体の管理画面を見ています。配信結果もクリエイティブの反応も入札の挙動も、全部相手の手元にあります。自分の仕事を自分で検証できます。
クリエイティブ制作。 同じです。何が当たって何が外れたかは相手が判断できます。
3PLの庫内オペレーション。 出荷精度もリードタイムも誤出荷率も、3PLが自社で計測しています。
カスタマーサポート。 一次対応の品質は対応履歴を見れば分かります。
サイトの実装。 動くかどうかは相手が確認できます。
ここまでは任せた側が細かく見なくても成立します。
任せられないもの
境界の反対側にあるのは複数の相手にまたがったデータがないと検証できない判断です。
1. 1件の注文からいくら残るのか
貢献利益を出すには、仕入のインボイス、通関書類、3PLの請求書、決済手数料の明細、返品の実績が要ります。
この5つを全部持っている相手が、外部にいるでしょうか。代理店は広告費しか見ていません。3PLは自社の請求分しか見ていません。会計事務所は月次で全社の数字を締めるだけです。
5つを全部持っているのは発注側だけです。だから発注側にしか出せません。
第1弾でこの計算を扱いました。粗利率から出した損益分岐ROAS(Return on Ad Spend、広告費に対する売上の倍率)と実際の数字には、1.0ポイントの差がありました。この差を誰かが指摘してくれることは構造上ありません。
2. 値引きをどこまで許容するか
ここが最も外注されやすく、最も外注してはいけない領域です。
販売価格48ドル、貢献利益20.61ドルの商品で考えます。値引きをするとこうなります。
| 値引き率 | 売価 | 貢献利益 | 定価比 |
|---|---|---|---|
| 定価 | $48.00 | $20.61 | ー |
| 10% | $43.20 | $15.95 | −22.6% |
| 20% | $38.40 | $11.29 | −45.2% |
| 30% | $33.60 | $6.63 | −67.8% |
値引き率の2.3倍のスピードで、貢献利益が減ります。
20%引きは売上を20%削るのではなく、利益を45%削ります。同じ利益額を維持するには販売数量が1.83倍必要になります。
このレバレッジは着地原価が分からなければ計算できません。そして値引きの提案は、たいてい外部から出てきます。セール施策もバンドル設計もクーポンの割引率も。
提案する側は売上で判断します。受ける側が利益で判断できなければ止められません。
3. 何をいくつ、いつ発注するか
在庫は広告と違って止められません。広告は不調なら予算を絞れば翌日から止まります。発注済みの在庫は届きます。
日本から仕入れる場合、海上便のリードタイムは数週間かかります。発注の判断は広告の判断よりずっと先行します。
必要なのは着地原価、販売速度、リードタイム、保管費用。この4つを同時に見られる相手は外部にいません。
4. どのSKU(Stock Keeping Unit、在庫管理上の最小単位)を残すか
売れている商品と利益が出ている商品は、違います。
送料無料ラインに到達させるための低単価商品、トライアルサイズ、重量のあるバンドル。売上ランキングでは上位でも、貢献利益で見ると別の順位になります。
第3弾で扱ったとおり、送料無料ラインのすぐ上にある注文が、そのブランドで最も利益効率の悪い注文になっていることがあります。この判断も原価を持っている側にしかできません。
任せたあと、何が起きるか
この4つを外注すると、意思決定そのものがなくなります。判断が消えるのではなく、誰も判断していない状態になります。
値引きは売上目標を追う側の提案で決まります。発注量は欠品を避けたい側の希望で決まります。SKUは増えることはあっても減りません。
どれも悪意ではありません。それぞれが自分の持ち場で合理的に動いた結果です。ただ利益の側から止める人がいない。
第2弾で書いた「代理店の報告書に利益が入っていない」という話と構造は同じです。渡していない指標は、最大化されません。
実際にどこまでやるか
全部を自分でやる必要はありません。維持すべきなのは次の3つだけです。
1. 主力SKUの貢献利益を、四半期に一度は更新する
毎日である必要はありません。ただ仕入ロットが変わり、為替が動き、3PLの料金が改定されれば、去年の数字は使えません。
2. 値引きの上限を、率で決めて渡す
「20%まで」と決めておけば、その範囲の判断は任せられます。上限がなければ判断のたびに自分が入ることになります。
3. 損益分岐ROASを代理店に渡す
これがあると、代理店の報告に対して継続か停止かを即答できます。判断のたびに考える必要がなくなります。
この3つだけ持っていれば、残りは任せて構いません。
続けるための仕組み
この3つを維持することが、実際には難しいところです。
仕入ロットごとに原価を持ち直し、為替を引き当て、3PLの請求書から費用を割り戻す。SKUが増えれば作業量も増えます。人員に余裕のない体制では2か月目には概算に変わり、3か月目には止まります。
craft8はこの計算を毎日自動で回すために作りました。Shopifyと広告媒体をつなぎ、通関書類と3PLの請求データを取り込んで、SKU単位の貢献利益と損益分岐ROASを毎朝出します。ダッシュボードの一番上には、先週いくら残ったのかと、いつもと違う動きがあったかだけが出ます。異常がなければそれだけ見て閉じてもらって構いません。
外注をやめるための仕組みではありません。任せたままでも、判断だけは手元に残しておくための仕組みです。
自社の値引きレバレッジを出してみたい、どの費用をどう按分すればいいか分からない。そうしたところで手が止まったら、Xまでご連絡ください。
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