第1弾の最後で、宿題を一つ残しました。
実務としては注文金額帯ごとにCM1率を出し、送料無料ラインの位置が妥当かを検証する価値があります。55ドルに上げるか、送料無料をやめてサンプル同梱などの特典に置き換えるか。この判断は金額帯別のCM1がないとできません。
今回はその検証をします。
先に結論を書きます。判断すべきなのは基準額そのものではなく、平均的な注文額と基準額の差です。この差が一定額を下回っていると、送料無料は構造的に赤字を生みます。いくらに置くかを競合と比べても答えは出ません。
まず、ラインの前後を比べる
第1弾で使った数字をそのまま使います。販売価格48ドルの商品、着地原価14.60ドル、US国内配送6.50ドル、3PLのピック/パック2.40ドル、決済手数料2.9%+0.30ドル、返品コスト2.20ドル。
送料無料ラインを50ドルに置いているとします。48ドルの単品を買う顧客はラインに届かず配送費を負担します。そこに4ドルの小物を足した顧客はラインを超えて送料無料になります。小物の原価と輸送費按分は1.36ドルとします。
| A:48ドル(顧客が配送費負担) | B:52ドル(送料無料) | |
|---|---|---|
| 商品売上 | $48.00 | $52.00 |
| 顧客から受け取った送料 | $6.50 | $0 |
| 着地原価 | −$14.60 | −$15.96 |
| US国内配送 | −$6.50 | −$6.50 |
| 3PL ピック/パック | −$2.40 | −$2.40 |
| 決済手数料 | −$1.88 | −$1.81 |
| 返品コスト | −$2.20 | −$2.20 |
| CM1 | $26.92 | $23.13 |
| 損益分岐ROAS | 1.78 | 2.25 |
売上が4ドル多いBのほうが、貢献利益は3.79ドル少なくなります。
ここまでは第1弾で触れました。問題はこの先です。
元が取れる追加購入額を計算する
ラインを超えた瞬間に、6.50ドルの配送費がブランド負担に変わります。それを埋めるには、追加購入分の貢献利益が6.50ドルを超えている必要があります。
追加商品の粗利率が65%なら、4ドルの追加で残るのは2.60ドル。決済手数料の増分を引くと2.48ドル。6.50ドルには遠く届きません。
元が取れる追加購入額は、次の式で出ます。
必要な追加購入額 = 配送費 ÷(追加商品の粗利率 − 決済手数料率)
先ほどの前提(配送費6.50ドル、追加商品の粗利率65%、決済手数料率2.9%)で計算すると、
6.50 ÷ (0.65 − 0.029) = 10.47ドル
実際に検算すると、10ドルの追加でCM1は26.92ドル。Aとほぼ同じになります。式が0.5ドルほど大きく出るのは、Aで顧客から受け取った送料にも決済手数料がかかっているためです。安全側に見るなら式の値を使ってください。
| 追加購入額 | 注文合計 | CM1 | Aとの差 |
|---|---|---|---|
| +$4 | $52 | $23.13 | −$3.79 |
| +$6 | $54 | $24.39 | −$2.53 |
| +$8 | $56 | $25.66 | −$1.26 |
| +$10 | $58 | $26.92 | ±$0 |
| +$12 | $60 | $28.18 | +$1.26 |
つまりこのブランドの場合、顧客が10ドル以上を追加購入して初めて、送料無料ラインが元を取ります。
ラインが50ドルで主力商品が48ドル。差は2ドルしかありません。この設計では、ラインに到達する注文はほぼ確実に赤字方向に働きます。基準額が高いか低いかの問題ではなく、主力商品の価格と基準額の差が必要な追加購入額を下回っていることが問題です。
追加商品の粗利率が変われば、必要額も変わります。
| 追加商品の粗利率 | 必要な追加購入額 |
|---|---|
| 40% | $17.52 |
| 50% | $13.80 |
| 60% | $11.38 |
| 70% | $9.69 |
| 80% | $8.43 |
サンプルサイズやアクセサリーのような低粗利の商品でライン到達を促している場合、必要額はさらに大きくなります。
ライン直上の注文は、3種類が混ざっている
ここが、この判断で最も誤解されやすい部分です。
送料無料ラインのすぐ上に注文が集まるのは事実です。ただしその集まりは性質の違う3つの集団が混ざったものです。
1. ラインがなければ48ドルで買っていた顧客
ラインに届かせるために4ドル足した。売上は4ドル増え、配送費6.50ドルを負担することになった。差し引き 3.79ドルの損 です。
2. もともと52ドル買うつもりだった顧客
ラインと関係なく買っていた。本来なら配送費を負担してもらえたのに無料にした。差し引き 6.31ドルの損 です。何も得ていません。
3. ラインがなければ買わなかった顧客
送料無料が購入の決め手になった。この場合は 23.13ドルの純増 です。
送料無料ラインが正当化されるのは3のパターンだけです。そして注文データを見ても、この3つは区別できません。ライン直上に山ができていること自体は、どの集団が増えたのかを何も語りません。
第1弾で広告の効果測定について書いたことと、構造は同じです。反事実は観測できません。
区別する方法は一つだけあります。期間または顧客セグメントを分けて、送料無料の条件を変えて比較することです。2週間ごとに基準額を切り替える、あるいは新規顧客とリピート顧客で条件を変える。それ以外に3つの集団を分離する手段はありません。
見落とされやすい2つのコスト
上の表には、実務で効いてくる2つの要素がまだ入っていません。
1. 追加商品が箱のサイズを変える
US国内配送は容積重量で課金されます。ライン到達のために商品を1点足した結果、箱が一段大きくなれば配送費そのものが上がります。
配送費が6.50ドルから7.60ドルに上がると、Bの注文のCM1は23.13ドルから22.03ドルに下がります。必要な追加購入額もその分だけ増えます。
ライン到達を促す商品を選ぶときは、粗利率だけでなく同梱しても箱のサイズ帯が変わらないかを見てください。薄いもの、軽いもの、既存の空きスペースに収まるものが望ましいことになります。
2. 埋め合わせで買った商品は返品されやすい
送料無料に到達するためだけに足された商品は、もともと欲しかった商品ではありません。返品率は主力商品より高くなる傾向があります。
Bの注文の返品コストが2.20ドルから2.75ドルに上がるだけで、CM1は22.58ドルまで落ちます。しかも日本から仕入れている場合、返品された1点の在庫損失は着地原価分です。
自社のデータで確認できます。ライン直上の注文と、それ以外の注文で、返品率を分けて出してみてください。差があれば、埋め合わせ購入が発生している証拠になります。
実務での決め方
順番があります。
1. 必要な追加購入額を出す
上の式に自社の配送費と追加商品の粗利率を入れます。ここで出た金額が、主力商品の価格と基準額の間に必要な最小の差になります。
2. その差が確保されているか確認する
主力商品が48ドルで必要額が10.47ドルなら、基準額は58ドル以上でなければ構造的に成立しません。50ドルに置いているなら、そこは直すべき箇所です。
ただし基準額を上げれば到達率は下がります。それは次で測ります。
3. 期間を分けて比較する
2週間から4週間、基準額を変えて運用します。見るのは売上ではなく注文全体のCM1合計です。
到達率が下がってもCM1合計が増えていれば成功です。売上が減ることはあります。それは想定内として扱ってください。
4. 送料無料以外の選択肢も同じ式で比較する
送料無料は負担の形の一つでしかありません。
送料は顧客負担のまま1.50ドルのサンプルを同梱すると、CM1は25.42ドル。52ドルの送料無料注文(23.13ドル)より2.29ドル多く残ります。顧客側の体感価値は、6.50ドルの送料が無料になる場合と大きくは変わりません。
送料半額にする、特定の低単価SKUだけ対象外にする。こうした設計も同じ式で比較できます。「送料無料か、そうでないか」の二択で考える必要はありません。
最初の一歩
配送費の実績平均と、ライン到達に使われている商品の粗利率。この2つを出せば、必要な追加購入額が出ます。5分です。
その数字と、いま設定している基準額と主力商品の価格を並べてください。差が足りていなければ、送料無料ラインは毎日少しずつ現金を減らしています。
難しいのはこの分析を継続することです。SKUが増えればライン到達に使われる商品の構成が変わります。為替が動けば追加商品の粗利率が動きます。3PLの料金改定があれば必要額そのものが変わります。一度決めて終わりにはなりません。
craft8はこの計算を毎日自動で回すために作りました。Shopifyの注文データと広告媒体をつなぎ、通関書類と3PLの請求データを取り込んで、商品単位と注文金額帯別のCM1とCM2を毎朝出します。ライン直上の帯が赤字に落ちれば、その時点で分かります。
配布している計算テンプレートに「金額帯別」というシートがあります。ラインの前後を比較する形で組んであるので、自社の数字に置き換えれば同じ表が出ます。
金額帯の分け方、複数SKUが混在する注文の着地原価の按分、返品率の分離。このあたりで手が止まったら、Xまでご連絡ください。
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